要介護状態の原因と現状分析レポート

本レポートは、厚生労働省の国民生活基礎調査(2022年)に基づき、要介護状態になる主な原因とその割合、年齢別分布、および2025年時点での介護予備軍の人数について分析したものです。高齢化社会の進行に伴い、要介護状態の実態を正確に把握することは、今後の介護政策や個人の健康管理において重要な指標となります。

1. 要介護状態になる主な原因と割合

1.1 要介護者全体の主な原因(2022年 国民生活基礎調査より)

要介護状態の主な原因(割合)
1. 認知症(23.6%)
記憶力、判断力、理解力などの認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態。アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症など多様なタイプがあります。高齢化に伴い、最も大きな要因となっています。
2. 脳血管疾患(脳卒中)(19.0%)
脳出血、脳梗塞、くも膜下出血などの総称で、脳の血管に問題が起こり、脳細胞が損傷を受けることで、麻痺、言語障害、嚥下障害、高次脳機能障害などを引き起こします。後遺症として身体機能や認知機能に大きな影響を及ぼすことがあります。
3. 関節疾患(19.3%)
膝や股関節などの関節軟骨がすり減り、痛みや炎症を起こすことで、歩行や立ち上がり、座るなどの日常動作が困難になります。変形性膝関節症や変形性股関節症が代表的で、特に女性に多く見られます。要支援状態の原因としては最も多い要因です。
4. 高齢による衰弱(17.4%)
特定の一つの疾患ではなく、加齢に伴う心身全体の機能低下。筋力低下(サルコペニア)、活力の低下、体重減少などが複合的に進み、虚弱(フレイル)な状態になることで、日常生活のちょっとした変化でも体調を崩しやすくなり、自立が困難になります。
5. 骨折・転倒(13.0%)
加齢による筋力低下、バランス能力の低下、骨粗鬆症などにより、転倒しやすくなり、骨折(特に大腿骨頸部骨折や脊椎圧迫骨折など)を負うことで、その後の活動能力が著しく低下し、寝たきりにつながることも少なくありません。

1.2 その他の主な原因

上記以外にも、心疾患(心不全、狭心症、心筋梗塞など)、呼吸器疾患(COPD、肺炎など)、糖尿病とその合併症、パーキンソン病関連疾患、脊柱管狭窄症、悪性新生物(がん)、精神疾患(うつ病など)が要介護状態の原因となることがあります。

特に重要なのは、高齢になると複数の要因が複合的に絡み合って要介護状態に至ることが多いという点です。例えば、軽度の認知症と関節痛があり、さらに転倒をきっかけに骨折し、一気に要介護度が上がる、といったケースが典型例です。

2. 年齢と要介護度の関係

要介護(要支援)認定を受ける割合は、年齢が上がるにつれて大きく増加します。以下のデータは、年齢による要介護認定率の変化を示しています。

年齢別要介護認定率
年齢区分 要介護認定率 特徴
65歳以上70歳未満 1.3% 介護が必要な人は非常に少ない
80歳以上85歳未満 11.3% 約10人に1人が要介護状態
85歳以上 59.7% 半数以上が何らかの介護が必要

このデータから、85歳を境に要介護状態になる割合が急激に増加することがわかります。これは、超高齢化社会における介護需要の予測において重要な指標となります。

3. 2025年時点での介護予備軍と要介護者の現状

3.1 要介護・要支援認定者数

2025年度時点での要介護・要支援認定者数は約717万人に達しており、これは65歳以上の高齢者(約3,607万人)のうち、約19.9%に相当します。この数字は過去最多水準となっています。

3.2 介護予備軍(フレイル・プレフレイル該当者)

2025年 介護状態別人数推計
区分 割合(%) 推計人数(万人) 説明
要介護・要支援 19.9 717 現在介護が必要な状態
フレイル 8.7~10.0 314~361 身体機能や認知機能の低下がみられる虚弱状態
プレフレイル 32.8~40.8 1,183~1,472 フレイルの前段階、予防対策が重要
※65歳以上人口3,607万人を基準とした推計

フレイルは、加齢に伴う心身の機能低下により、健康な状態と要介護状態の中間に位置する状態を指します。プレフレイルは、フレイルの前段階であり、適切な介入により健康な状態に戻ることが可能とされています。

これらの数字を合計すると、フレイル・プレフレイルを含めた介護予備軍は1,500万人以上にのぼる可能性があります。これは、65歳以上の高齢者の約4割以上が何らかの支援を必要とする状態にあることを示しています。

4. 要介護状態予防の重要性

本分析結果から、以下の点が重要な課題として浮かび上がります:

  1. 認知症対策の重要性:最も大きな要因である認知症(23.6%)に対する予防策と早期発見・治療体制の充実が急務です。
  2. 生活習慣病の管理:脳血管疾患(19.0%)の予防につながる高血圧、糖尿病、高脂血症などの管理が重要です。
  3. 運動機能の維持:関節疾患(19.3%)や骨折・転倒(13.0%)の予防のため、継続的な運動習慣と筋力維持が必要です。
  4. フレイル予防:介護予備軍とされる1,500万人以上の人々に対する予防的介入が重要です。

5. まとめ

要介護状態になる原因は多岐にわたりますが、認知症、脳血管疾患、関節疾患が主な要因となっています。年齢が上がるにつれて要介護認定率は急激に上昇し、85歳以上では約6割の人が何らかの介護を必要とする状態になります。

2025年時点で要介護・要支援認定者は717万人に達し、さらに介護予備軍とされるフレイル・プレフレイル該当者を含めると1,500万人以上が支援を必要とする可能性があります。これらの数字は、今後も高齢化の進行とともに増加傾向が続くと予想されます。

このような状況を踏まえ、個人レベルでの健康管理と予防対策、社会全体での介護予防システムの構築が急務となっています。特に、プレフレイル段階での適切な介入により、要介護状態への進行を遅らせることが可能であり、これが今後の介護負担軽減の鍵となると考えられます。

データ出典:厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)、各種統計資料より作成